動物の権利を真面目に考える

動物の権利論関係の文献(日本語・英語・仏語)の読書メモ、紹介。

憲法改正による動物保護の可能性(Oliver LE BOT "Inscrire l’animal dans la Constitution"(「憲法に動物を書き込む」)

以下は、Oliver LE BOT "Inscrire l’animal dans la Constitution"(「憲法に動物を書き込む」)という文章の読書メモ。
www.slate.fr

著者は法学者でフランスのエクス=マルセイユ大学の先生。
憲法を改正し動物保護に関する条文を加えることで、よりよい動物保護を実現することができるという立場から議論を展開しているようだ。
同じ著者による、動物保護の実現手段としての動物の権利に対する問題点を論じている論文は以下で紹介した。

teran2teran.hatenablog.com

以下は、上述の文章の概要。

幾つかの国がすでに、憲法を修正し、動物に関する条項を加えている。例えばインドは1976年に生物に対する「共感の義務」を加えた。ブラジルは1988年に動物に対する虐待を憲法において禁じた。ヨーロッパの様々な国の憲法にも動物に関する文言が書き加えられていった。
「動物の尊厳」(スイス)、「動物の保護」(ドイツ)、動物の「福祉」(ルクセンブルク)などである。

フランスが憲法に同様の条項を導入するとしたら、二つのケースが考えられる。ひとつは最小限のものであり、「国が動物保護を保障する」ことを命じる。もうひとつはより積極的なもので、「動物は生命と感覚する能力を持つものであり、その生命と福祉は尊重されなければならない」と言明する。

こうした修正の具体的なインパクトとはどのようなものだろうか。

まず、修正された憲法にそぐわない法律、条例、行政に関わる諸決定は全て憲法違反となり、管轄の判事により無効とされる可能性がある。例えば、闘牛を許可する刑法521-1条は憲法評議会により無効化されると考えられる。あるいは、動物福祉の標準を尊重しないサーカスの地方自治体での公演を許可する市町村条例が、行政判事により停止されることも考えられる。

次に上述のような修正は動物保護のために、 公権力が個々人の特定の基本的権利の制限を課すことに根拠を与える。憲法に動物保護の根拠がなく、かつ、動物に関する法令や条例が、憲法が保障する財産権や信教の自由、職業の自由などと衝突している状況を考えると、その場合は、前者が問い直されることになるだろう。しかし、動物に関する法令や条例が憲法に根拠を持つのであれば、そういった可能性を逓減することができ、また政府や議会は、法による動物保護を強化することができる。

第三に動物に対する虐待的な扱いが抑止される。現状においては、動物への暴力が起訴にまで至るケースや刑が宣告されるにまで至るケースはまれであるが、こうした状況が変わる可能性がある。動物保護がより重要な価値を持つにつれ、動物に対する残酷な暴力行為が刑事告訴の案件となる頻度が増え、また、法廷がそういった行為を厳しく取り扱うことにより、抑止的な効果がもたらされるだろう。

また、裁判官による法文解釈への影響が挙げられる。ある条文に対して複数の解釈があり得るとき、動物保護を求める憲法の条項は、よりアニマル・フレンドリーな解釈を行うよう裁判官に影響を及ぼすだろう。

最後に、良心的拒否の権利が認められることになるだろう。一般的に良心的な拒否が正当と見なされるのは、問題になっている価値(例えば、いかなる場合であれ殺人は道徳的に不正であるとする考え)が広く支持されているものに限られる。憲法における動物保護の条項は、例えば生徒が良心に基づき動物実験を拒否することを正当化する根拠となりうるだろう。

憲法の中に動物を書き込むことにより、ひとつの枠組み、参照軸が定められることになる。あらゆる個人、権力機関はそのような枠組みを遵守するよう求められるのである。

この文章と関連する著者の著書は以下。そのうち読んでみたい。ありがたいことに安い。
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